
「えをかく」というタイトルです。
どんな絵が描かれるのでしょうか?
まずはじめに じめんを かく
おひさまと ほし
うみ
かわとやま
森を かく
シカ
シカの 走る 野原を かく
はな
あぶ
つばめ
たか
風
雲
雲のかげ
もぐら
かえる
なまえもしらない 草の葉を かく
ちいさな いしころ・・・・
たくさんのものを かいた後に
ひとりのこどもを かきはじめる・・・
おかあさんを かく・・・
ゆうべの夢を かく
しにかけた おとこ
もぎとられた うで
流れつづける 血と
くさり始めた 肉を かく
つむられた めと
かわいた なみだを かく
ひっとこめん
おかめの めん・・・
あれはてた たんぼ
おばあさん
いっぽん いっぽん しわを かく
それから えのどこかに じぶんの なまえを かく
そして
もういちまい しろい紙を めのまえにおく
はじめに じめんを かく
・・・
「かく」という言葉が、脚韻のように、くりかえされる詩です。
しろい紙に地面を描いて、はじまります。地面は一本の棒です。描くものが、どんどん広がっていきます。子ども、いっけんの小屋、煙突、窓と扉、おなべ、火、じゃがいもとねぎ、おかあさんを 描いていきます。
ふとんと時計、ひょとこやおかめの面に挟まれて、ゆうべの夢があります。その夢は、戦争の犠牲になった人を連想させます。「しにかけた おとこ」「もぎとられた うで」という表現が、脈絡がなく、あらわれますが、この悲惨な現実は、わたしたちの世界の隣りにあることを表現しているように思います。
・・・
※『えをかく』 谷川俊太郎作、長新太絵、講談社 2003年(新装版2023年) (2025/3/22)