ふるはしかずおの絵本ブログ3

読み手は絵本の「演奏家」-子どもの切実な体験の創造へむけて

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西洋の五線譜は大変便利な記譜法だが、なお不備は免れない。ことに音色、響きの質、肌触りなどは表記しにくく、それをどう処理するかは演奏家の好みと思想の根本にかかわる」( 吉田秀和 )
    

    
 著名な音楽評論家のいうように、「音色、響きの質、肌触りなど」は、五線譜に表記しにくいものです。そして、この指摘は、音楽だけでなく、絵本を読みかたりにも当てはまります。
               
          
 読み手は、絵本の文章に命を吹き込みます。ことばは音声の中で生きてきます。音声によって作品世界を彩り描きだします。トーン、イントネーション、間、読みのテンポを工夫し、ニュアンス、雰囲気を読みとり、「声」によってその世界を創造し、表現します。読み手は、絵本の「演奏家」だといえるでしょう。
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 子どもたちは、絵本の中で想像力を羽ばたかせ、ゆたかなイメージを描きます。そして、そのことによって、子どもたちの文芸の体験(うれしさ、悲しさ、たのしさ、うたがわしさ、不安、緊張、喜び、期待、想像、安心、そしてこれらの感情のないまぜになった芸術的体験)は切実なものになります。
         
              
 絵本の読みかたりにおいて大切なことは、読者のこの切実な体験をつくることです。それをどのようにつくるかは、読み手の仕事であり、読み手の「好みと思想の根本」にかかわります。
    
   

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