ふるはしかずおの絵本ブログ3

語り手と聞き手の「対話」-『ロージーのおさんぽ』
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語り手と聞き手の「 対話 」について、『 ロージーの おさんぽ 』を例に説明します。

      

        Ⅰ
表現は相手あって表現

子どもたちに人気のある絵本を読んでみますと、聞き手(読者)に向かって、その反応をひとつひとつ予想しながら、かかれているようです。絵本は、子どもが読む本であるからこそ、聞き手(読者)を重要な役割をあたえています。聞き手である子どもの「参加」をもとめています。
また、文と文、絵と絵は、ぽつぽつと切れているのではなく、ひとつの山脈を成すようにつながっています。絵本の世界は、音楽と同じようにイメージの流れとしてあり、そのなかで語り手(作者)と聞き手(読者)の「対話」があります。
読み手は、読者の参加を促すために、イメージの流れをつくり対話が成り立つように、文と文、絵と絵をつなげて文脈をつくるように読んであげる必要があるでしょう。

 

          Ⅱ
語り手と聞き手の「 対話 」

文脈をつくる「読みかたり」とは何でしょうか。
『 ロージーの おさんぽ 』 ( パット・ハッチンス、渡辺茂男訳、福音館書店 )を例にして、聞き手と読み手のつぶやき( 対話 )を想像しながら書きながら説明します。聞き手のつぶやきは(  )読み手のつぶやきは「  」 で表現します。
           ・・・
○第一画面 - めんどりの ロージーが おさんぽに おでかけ。散歩にでかけるロージーの うしろで、 舌なめずりするようにして、ねらっているきつねが画面に描かれています。しかし、ロージーは気づ いていません。
 ( どこへ行くのかな。)
 ( きつねがいるよ。 )と聞き手。
 「 きつねは何をしているのかしら 」と読み手。
 ( おいしそうだなあって )
 ( ロージーをねらっている )
           ・・・
○第二画面 - おにわを すたこら。きつねが、ロージーに飛びかかろうとしていますが、ロージーは気づていません。
 ( あっ、 きつねが うしろにいる )
 ( あぶない、 たべられちゃう ! )
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○第三画面 - 首がまがるほど、草かきにぶつかる きつね。ロージーは、 間一髪難をのがれるが、 まだ気づいていません。文章はなく、 絵だけです。
 ( あっ、ぶつかった。たべようとおもうからぶつかるんだよ。)
 「 そうね 」。
 ( へんな きつね。 )
 「 でも、 ロージーはわからないみたいね。 だいじょうぶかな。 」
          ・・・
○第四画面 - おいけの まわりを ぐるり。きつねは、いまにもロージーを捕まえそうです。
 ( あぶない ! )
 ( また、 つかまえようとしてる )
 「 ロージーは 食べられてしまうのかしら 」「 どうなると 思う 」
 ( つかまるよ )
           ・・・
○第五画面 - 水しぶきがあがり、きつねはまたも失敗。ロージーは、この危機にまだ気づいていません。
 ( あっ、 いけにおちた。 )
 ( やっぱりおちた。 )
 ( へんなきつね )
 ( ばかな きつね )
         ・・・
くどい書き方になりましたが、文章のうらに語り手と聞き手の「 対話 」を想像して書いてみました。 聞き手の立場に身をおく読者は、このような対話を通してロージーの世界のなかに入りこんでいることでしょう。読者は、聞き手の側にたって読んだり、 語り手の側から見たり、あるいは作中人物の誰かになって、おはなしに「 参加 」している姿です。
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絵本の文章は、ロージーの行動を叙事するだけで、きつねがロージーをねらっていることをひとつも語りません。絵がそれを表現しています。3歳児や4歳児には、このふたりの人物の関係( 命をねらう-ねらわれる )がよく分かっていない場合があります。5歳児になると、きつねを批判的に見ることができますが、それでも蜂に刺されたきつねを心配して見ている子どももいます。
         ・・・
きつねが、ロージーの命をねらっているという文脈が、文章に表現されていませんので、読者は、ふたりの関係を理解し、想像することがもとめられています。この文脈が想像されていませんと、きつねが、なんども失敗する場面を楽しむことができないでしょう。
         ・・・
『 ロージーの おさんぽ 』 は 文字がすくないので、一見するとやさしい絵本のように見えますが、3.4歳児には難しい絵本ともいえます。 と言いますのも、読者は、絵本の文脈を自分でつくらなければならないからです。
この絵本の場合、読み手は読みかたりをはじめる前に、表紙を見せながら、「めんどりを食べようとしているきつね」というふたりの人物の関係について説明しておくのがよいようです。また、読みかたりの途中においても 「 きつねは何をしているの ?」「 どうなるのかしら ?」「 ロージーが 心配ね 」といった言葉がけが、必要かもしれません。

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※『 ロージーの おさんぽ 』 パット・ハッチンス、渡辺茂男訳、福音館書店

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