ふるはしかずおの絵本ブログ3

『ぼくからみると』-わたしのみる池、あなたのみる池

image

『ぼくからみると』は、「かがくのとも」の一冊です。

著者は、原子物理学者の高木仁三郎さん。

しかし、科学知識らしきものが、どこにも書かれていない不思議な本です。

なぜ、「かがくのえほん」なのでしょうか。

       ・・・

なつやすみの あるひ。 ひるすぎの ひょうたんいけ。

自転車に乗ってくるしょうちゃん。

池で釣りをしているよしくん。第1画面。

       ・・・

じてんしゃの しょうちゃんから みると・・・

第2画面は、自転車のしょうちゃんから、池とよしくんをみたイメージです。

近くのものは、流れるように描かれ、動的なイメージです。

        ・・・

   つりをしている よしくんから みると…

   いけのなかの さかなが みたら…

   かいつぶりの おかあさんが みたら…

   とんびから みると…

   かやねずみの おとうさんから みると…

   みつばちから みると…

   あまがえるから みると…

   もずから みると…

   だれかさんから みると…

        ・・・

このように、みんな「ひょうたん池」のまわりにいます。

でも、みている情景が違うのです。

image

英文タイトルは、“The world  before me, before you”

「わたしの前の世界、あなたの前の世界」。

こうしたタイトルには、

「わたしの前の世界」と「あなたの前の世界」は、

違ってみえているはずだという考えがあるようです。

見るものによって、同じ対象も異なって見えるのです。

           ・・・

  子どもたちにとっては、・・・釣りのできるひょうたんいけ。

  さかな、かいつぶり、かえるにとっては・・・すみかとしての池。

  とんびやもずからは、・・・えものがいる池。

  それぞれにとって「池」の意味が違います。

            ・・・

この絵本は、

ぼくの見ている 世界(池)と、

きみの見ている 世界(池)は、

同じではないことを、

動物の視点との比較において、

わかりやすく説明した 「かがくのえほん」です。

       ・・・

つまり、すべての認識は、みる主体を抜きにしては ありえないというものの見方です。

情(主観)と景(客観)は一体なのです。

現代の科学論を背景にしたこうした考えが、この絵本を「かがくのえほん」に 分類させているように思います。

        ・・・

また、片山健さんの絵は、

楽しげに見えた 池の世界に、

動物たちの 生死のドラマがあることを表現しています。

ちいさな「ひょうたんいけ」の世界も、

拡大鏡でのぞくようにしてみると、

視点を変えてみると、

いろいろなものの生活が 見えてきます。

本文の内容を 発展させたすばらしい絵です。

       ・・・

※ 『 ぼくからみると 』 高木仁三郎ぶん、 片山健え、福音館書店 1995年

SHARE