ふるはしかずおの絵本ブログ3

『 注文の 多い 料理店 』- 初読と再読で異なる読書の体験      

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宮沢賢治の生前に 刊行された唯一の童話集。
それが、『 注文の多い 料理店 』でした。
そのタイトルにもなった作品で、ご存知の方も多いことでしょう。
    ・・・
ふたりの「 紳士 」が、 狩りにやってきました。
こんなことを 言いながら。
     
 ぜんたい、ここらの山は怪けしからんね。鳥も獣けものも
 一疋も居やがらん。なんでも構わないから、早くタンタアーンと、
 やって見たいもんだなあ。

       ・・・
 鹿の 黄いろな 横つ腹 なんぞに、二三発 お見舞まうしたら、
 ずいぶん 痛快だろうね。くるくるまわって、それが どたつと
 倒れる だろうねえ。

     
彼らは道に迷い、
レストラン・山猫軒に入ります。
扉に書かれた案内にしたがって、
扉を、 
どんどんひらいて
奥へ
奥へと 入っていきます。
扉の多い奇妙な レストラン。
     ・・・
この先 どうなるか、
人物( 二人の「紳士」)は 知りません。
読者( わたしたち )も 知りません。
     ・・・
この関係が、スリル サスペンスを 生みだします。そして、ふたりは、 おそろしい山猫に 近づくのです。おいしい食事を 食べられると 思ったのに、逆に自分たちが 食べられる? ふたりは、山猫に 食べられてしまうのでしょうか。
はたして、その結末は ?
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この作品には、
鳥や けものの命を奪うことに 痛みを 感じない人物、
命を 無駄に奪う行為への、
賢治の
怒り、
憎しみが あります。
     ・・・
最後に、作者は、ふたりの顔を 紙くずのようにして、東京へ帰します。見栄や 体面にとらわれている 彼らには、致命的な罰です。彼らは、紙くずのような 人物 なのです。「注文の多い料理店」は、ふたりの「紳士」の心が生みだした世界だと言えます。ふたりの心を覗いてみると、山猫のいるような世界なのです。賢治の仏教説話です。
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ところで、読者の体験のことですが、読者は、初読と再読で異なるイメージの体験をします。はじめて 読むときは、スリルサスペンス。すこし、不気味な感じです。もう一度 読むと、こんどは ユーモアがあり、滑稽な感じの体験が加わります。しかし、このユーモア・滑稽さには、皮肉(アイロニー)と諷刺(サタイア)が含まれています。
先をしらない初読と、結末まで知っている再読の場合、やはり読書の体験は異なります。初読と再読で、異質な体験をするおもしろい作品のひとつが、この「注文の多い料理店」です。    
     
※『 注文の多い 料理店 』 宮沢賢治作、 島田睦子絵、 偕成社 1984年
【 追 記 】
山猫の言葉に、言葉遊びがあります。
「 料理はすぐできます。/十五分とお待たせはいたしません。/すぐたべられます。」「大へん結構にできました。/さあさあ おなかに おはいりください。」
前者は、可能の「たべられる」と自分たちが「たべられる」の二重性。後者は「お中に」と「お腹の中」です。 恐怖感がたかまる場面に、この言葉遊びです。
『 注文の多い 料理店 』の絵本は、スズキコージさんのもの(ミキハウス)をはじめ何冊かありますが、迫力のある山猫の絵から島田睦子さんの絵本を選びました。 (2016/7/24) 

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