ふるはしかずおの絵本ブログ3

『 手ぶくろを 買いに 』 - 「 ほんとうに 人間は いいものかしら 」

2221
新美南吉の名作を 黒井健さんが詩情ゆたかに描きました。
     ・・・
寒い冬。
母ぎつね は、
毛糸の手ぶくろを、子ぎつねに買ってやろうと 思いました。
しかし、町の灯を見たとき、母ぎつねは 足がすくんでしまいました。むかし、あひるを盗もうとして、命からがら逃げたことを 思いだしたのです。母ぎつねは 言います。
人間って ほんとに 恐いもの なんだよ
     ・・・
母ぎつねは、子ぎつねの片方の手を、人間の子どもの手に変え、手ぶくろを買いに 行かせます。そして、かならず、人間の手のほうを出して、手ぶくろをちょうだいと言うように 子ぎつねに言いきかせます。
66
でも、
子ぎつねは、間違えて、きつねの手のほうを 出してしまったのです。
     ・・・
帽子屋さんは、おやおやと 思いました。
帽子屋さんは、お金が本物であることを確かめ、毛糸の手ぶくろを わたしました。
     ・・・
子ぎつね は、母のもとに 帰ってきて 言います。
母ちゃん、人間ってちっとも こわかないや。
どうして?
まちがえて、ほんとうの手を出してしまった 話をします。
まあ !
99
母ぎつねは、つぶやきます。
「 ほんとうに 人間はいいものかしら。 ほんとうに 人間はいいものかしら 」。
     ・・・
母ぎつねと子ぎつねと人間について判断は 対照的です。母ぎつねは「こわい」、子ぎつねは「こわくない」。でも、どちらも1回きりの経験からの判断でした。「こわい」か「こわくない」かは、1回の経験から判断できるものではありません。「人間はいいものか」どうかは、なおさら難しいことです。人間についてのふたりの認識はどちらも一面的だといえるでしょう。
そこで、もう一度、「 ほんとうに 人間はいいものかしら 」と 問うてみます。この問いは、母ぎつねの疑問であり、作者の問いです。しかし、この問い、簡単に解けることではありません。おはなしの終わりの言葉ですが、読者にとって「問い」の始まりでもあります。
     ・・・
※『 手ぶくろを買いに 』 新美 南吉作、 黒井 健絵、 偕成社 1988年 (2017/3/13)

SHARE