ふるはしかずおの絵本ブログ3

『 ハンナのひみつの庭 』- 家族の再生物語
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複雑な視点構成で、家族の再生を描いた作品です。

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登場人物は4人。
 ハンナ
 弟のルッチェ・マッテ
 おとうさん
 亡くなったママ
4人の声が、聞こえてきます。
ページごとに視点が、入れ替わります。
おとぎ話のローザ姫のおはなしまで織り込まれた、複雑な構成の絵本です。

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ママが亡くなって、
仕事のことばかりで、子どものことをかまわない パパ
ハンナ(11歳)は,愛想をつかし、
わたし、家出するわ! ママの庭に行く!
ハンナは、家のむかいにある、ママの庭で暮らすことになります。
そこでは、亡くなったママの声が聞こえます。

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ハンナは、
ママの部屋から、弟のルッチェ・マッテ(7歳)にたのんで、
バスケット
テーブルセット
鏡台
長椅子をもってきてもらいました。
ハンナは、パパやルッチェ・マッテの料理をつくり、犬やヤギにつかって、送り届けます。ママの庭は秘密の花園です。だんだん、美しく生活感のある庭になってきます。それは 家族の再生の象徴 です。

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あるとき、

風が吹いて、パパが庭に転がりこんできました。
ハンナ、ルッチェ・マッテ、パパの3人は、ママの花園で出会います。
そして、もういちど家族3人の絆を取り戻します。
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文章の視点構成と表現の複雑さに、びっくりしました。

  ( (゚д゚)! )

映画の「羅生門」のような、多元的な視点による対象へのアプローチです。ハンナの視点。弟のルッチェ・マッテの視点。亡くなったママの言葉まで会話の形で出てきます。ハンナが中心ですが、ページごとに語り手が入れ替わる構成です。わたし(ハンナ)の独白、手紙、さらに劇中劇のように、弟のルッチェ・マッテが読む「ローザ姫のおはなし」まで織り込まれています。それはハンナの物語のようにも読めます。

 

視点が転換するとともに、絵まで3つの様式で描かれています。(ブログにあげた3つの絵をご覧ください)。

文章と絵は、このように高度で複雑な虚構の方法をとっています。

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イメージの流れは複雑ですが、読者は誰の視点にも立たず、全体を見渡すような立場に置かれます。そして、おかあさんが亡くなった後、もう一度絆を取りもどす家族の再生の物語を体験します。

小説には見られる多元的な視点ですが、絵本の場合、実験的な作品だと思います。絵本が想定している読者は、年齢がたかくおはなし好きの子どもです。

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オランダ〈銀の石筆賞〉受賞しました。
( でも、 (・_・; )  むずかしい )

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※『 ハンナのひみつの庭 』 アネミー・ヘイマンス・ マルフリート・ヘイマンス作 野坂悦子訳 岩波書店 1998年  (2019/12/15)

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