ふるはしかずおの絵本ブログ3

『 アンナと わたりどり 』- 飛び立つ 渡りどり・旅立つ アンナ

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季節労働者の 家族の姿を、アンナの視点から 描きます。
     
ひとつの ばしょで ずっと くらすのって、
どんな かんじでしょう。アンナは そらを みあげます。
じぶんの ベッドが あって、じぶんの じてんしゃが ある。
それって、とっても すてきなこと。

     
アンナは、ときどき じぶんのことを 渡り鳥みたい、と思います。
仕事を もとめて、
春には 北へ。
秋には 南へ。
そして、畑に近い 空家に すみ、はたらきます。
つよい 日差しのなか、背中をまるめて はたらく 家族たち。
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アンナは、じぶんを 
野うさぎ みたい、
ハチ みたい、と思います。
みんなは、ハタラキバチ です。
そして、
夜になると、
アンナは、ひとつの ふとんに、おねえさんたちと こねこの ように からだを まるめて 眠ります。
おにいさんたちは こいぬの ように ねむります。
ちいさな ふとんを 奪いあうようにして。
     ・・・
買い物に 行くと、じろじろと 見られます。
なんだか 恥ずかしい アンナ。
聞き取れる ことばは ほとんどありません。
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 アンナは、空想します。
 大地に 根をおろした 木のことを。
 風のように すぎる 季節を みまもる 木。
 秋には、葉が 散り、
 飛びたつ ちょうちょを みとどけ、
 渡り鳥の 群れを 見おくる 木。
 冬には、雪に つつまれ、
 春には、渡り鳥の なきごえに ゆりおこされる 木のことを。
 それって、とっても すてきなこと
     ・・・
秋、
渡り鳥は とびたちます。
そして、アンナと家族も 旅立ちます。
ちょうちょのように、
とりのように、
かぜに まう はねのように

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メキシコとカナダを 行き来する 季節労働者の姿と 家族への愛が、アンナの心象風景を通して、詩情ゆたかに 描かれています。多くの比喩は、アンナの目をとおした表現です。知らない土地、知らない人たち、知らないことばの中で暮らす アンナ。アンナは、木に なりたかった のかもしれません。大地に 根を下ろして、季節の変化をうけいれ、楽しむ 木に。
      ・・・
絵本の中に、オオカマダラ という オレンジ色の 蝶が、描かれています。季節によって、南米と北米を行き来する その蝶は、アンナの家族を 象徴しています。また、幻想的な絵は、アンナの心象風景を表現しています。2011年、ニューヨーク・タイムズの最優秀絵本賞を受賞した絵本。私の 好きな絵本です。
      ・・・
※『 アンナと わたりどり 』 マクシーン・トロティエ 文、イザベル・アルスノー 絵、 浜崎 絵梨 訳、 西村書店 2015年
【 追 記 】
子どもに読んでやるには、前もって、季節労働者についての知識をあたえておくことが必要でしょう。また、絵本の編集者は、「アンナの一家は、メノナイト派(再洗礼派)と呼ばれる小さなキリスト教のグループに属します。低地ドイツ語を話し、平和と非暴力を信条として質素な生活を送る彼らは、カナダやアメリカのほか、現在ではメキシコに数多く在住しています」と教えてくれました。メノナイト派(再洗礼派)のことを背景にすると、このおはなしをより深く読めるように思います。大人向けの絵本かもしれません。   (2017/8/30)

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