ふるはしかずおの絵本ブログ3

『 やまなし 』- 異質なイメージがめまぐるしく動き流れる

絵1
宮沢賢治の「やまなし」です。
はじめの場面を引き合いにして、イメージの流れについて書いてみます。音楽を感じます。
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 小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈です。
    
 一、五月
 二疋の蟹の子供らが青じろい水の底で話していました。  
 『 クラムボンは わらったよ。 』  
 『 クラムボンは かぷかぷわらったよ。 』  
 『 クラムボンは 跳はねてわらったよ。 』  
 『 クラムボンは かぷかぷわらったよ。 』
 上の方や 横の方は、青く くらく
 鋼のやうに 見えます。
 その なめらかな 天井 を
 つぶつぶ 暗い泡が 流れて行きます

     ・・・  
語り手は、いったい どこにいるのでしょうか?
語り手は、谷川の底 にいます。 谷川の底から見ますと、上の方や 横の方は、青く くらく 鋼のように見えます。
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なめらかな 天井とは 比喩。
視点は川の底ですから、天井は水面の喩えです。
また、「なめらか」ですから、風も吹いてないのです。
かにの子どもたちの 吐く泡は、
     
 水銀のやうに 光って 
 ななめに上の方へ のぼって 行きました

     
川は、ゆっくりと 流れています。
雲がとれ、日の光が、水のなかにさしこみました。
うつくしいイメージが生れます。
      
 俄に天井に 白い泡がたつて、
 青びかりの まるで ぎらぎらする
 鉄砲弾のやうな ものが、
 いききなり 飛込んで来ました

   
かわせみです。
それは、さかなの死を 意味していました。
静かであった世界が、急転します。
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読みかたりで紡ぎだされる世界は、川のながれに喩えることができます。イメージの流れは、うごき、うつり、かわっていきます
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「 やまなし 」の場合
 緩急があり、
 反転、
 急転、
 屈折、
 葛藤 しながら ……
 いきなり、
 ぱっと、
 さっと、
 にわかに、
 たちまち、
 というように 変化していきます。
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明 と 暗、
生 と 死、
ユーモア と 不気味さ。

異質なイメージが、拮抗し、めまぐるしくうごき、展開します。読みかたりは、調子、声量、テンポ、強弱、間、イントネーション等を変えながら、音楽を生みだすようにします。
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そして、読み手の声によって創造される世界のなかで、ドラマがおこり、読者の深い体験がうまれます。
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「やまなし」は、生と死の修羅の世界(五月)のあと、恵みの世界(十一月)が続きます。修羅と恵みの二つの世界は、コインの表と裏のように構成されています。そして、この2つの世界が、季節を変えて、同じ場所におこります。娑婆即浄土です。「法華経」を深く信仰した賢治の世界観が表現されています。また、ときおり見られるユーモアが、緊張をやわらげます。
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※『 やまなし 』 宮沢賢治作 安藤 徳香絵 福武書店 1986年

【 追記 】
「 やまなし 」 には、いくつかの絵本がありますが、安藤徳香さんの絵本を選びました。賢治の世界とはやや異質な感じがする絵ですが、文章と渡りあう画家の意気込みを感じます。    (2017/6/29)

  

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