ふるはしかずおの絵本ブログ3

『 はんじさん 』- 音楽性ゆたかな詩文

人間というやつは、いま死ぬという土壇場にならないと、気のつかないことがいろいろある。」( 山本周五郎 )

 

       ・・・

ここは裁判所。

囚人が、連れてこられました。

囚人たちたちは、恐ろしいものが、やってくると訴えます

しかし、判事さんは、みんな牢屋に入れてしまいます。

 

     ・・・
こいつは しゅうじん だい1ごう。
こいつを さいばん してください!

       

 にがして ください はんじさん

 わたしは ちっとも しらなかった

 わたしが わるいこと したなんて

 わたしは みたまま いっただけ

 おそろしい ものが こっちのほうへ

 まいにち まいにち だんだん ちかく。

   めは ぎらぎらと おっかなく

   おっぽは けだらけ

 はんじさん、みんなで おいのり しましようよ!

    

  嘘つきだ。牢屋に放り込め!

このあと、囚人第2号から第5号まで、変化をともなった反復です。

 

囚人第2号

 にがして ください はんじさん

 わたしは ちっとも しらなかった

 わたしが わるいこと したなんて

 わたしは みたまま いっただけ

 おそろしい ものが こっちのほうへ

 まいにち まいにち だんだん ちかく。

   めは ぎらぎらと おっかなく

   おっぽは けだらけ

   あしは つめだらけ

   くちは ぱくぱく

 はんじさん、みんなで おいのり しましようよ!

 

  頭が変だ。鎖でしばっとけ!

    

囚人第3号

「くちは ぱくぱく」の後に、次の言葉が付け加えられます。

 うおーっと ほえて ううーっと うなり

 いしも がりがり

 はんじさん、みんなで おいのり しましようよ!

 わしを だますと許さんぞ!

       

囚人第4号

「はねは ひろがり/するのは わるいことばかり」。

「こいつは とんまだ つれてゆけ。/がっちり ろうやに いれておけ」

 

囚人第5号

「くちから ひを ふき/なまえも きいた ことがない」。

「うそつき! ごろつき! ばか! まぬけ!/ふぬけの おまえは ろうやゆき!」

     ・・・

囚人たちは、何がやって来るというのでしょうか?

そこへ、現れたのは?

 (絵だけの3ページです)

魔物、怪物 、モンスター 、恐ろしい魔獣。(下の絵)

頑固な判事を食べてしまいました。

4音、5音の文節で畳みかけるように続くリズミカルな詩文です。声にだして読むことで魅力がさらにまします。

 

くりかえしの表現によって、読者の謎が深まり、サスペンスが生まれます。また、囚人たちの緊迫感と頑固な判事の人物像を強調します。

   

      ・・・

※『はんじさん』 ハーヴ・ツェマック文、マーゴット・ツェマック絵 こばしげお訳 富山房 1975年

 

【 追 記 】

山本周五郎の言葉はネット上で見つけました。そうかもしれないと妙に納得しました。

ところで、この絵本は絶版です。

静岡市立図書館で書庫から取り出してもらいました。すぐに手に入るものではありませんが、絵本の文章の音楽性を考える1冊として紹介しました。また、音数律のととのったリズミカルな詩的な文章は、日本の絵本ではあまり見かけません。こうした表現方法を日本語の絵本に応用するのは難しいところがありますが、木下順二の『かにむかし』のようなスタイルを継ぐ作家はいないかなと、ときどき思います。   (2021/3/13)

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