ふるはしかずおの絵本ブログ3

『 はだかの 王さま 』- 自分を失った人間の悲喜劇


アンデルセンの有名な童話(1837年)です。
絵は『 ちいさい おうち 』のバージニア・リー・バートン。
絵本の初版は 1949年です。
・・・
むかし、
あたらしい服が、大好きな王さまがいました。
ある日、ふたりの男が、機織りだと言って、宮殿にやってきます。
じつは、悪もの( 詐欺師 )。
おろかな者には見えないが、
かしこく、役目にふさわしい者だけが見える
、そんな服をつくることできると、触れ込みます。
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王様は、大喜び。
さっそく、新しい服を 注文します。
ふたりは、服地を織りはじめますが、
だれも、それが、見えません
( 織ってるふりを しているだけですからね。 )
大臣も役人も、見えない服地に 困惑。
でも、
見えなかったとは いえません。
( 見えないと言ったら、愚か者に なってしまいます。)
都の人たちも、魔法の服の うわさをしました。
・・・
最後に、
王さまが、自分でも見に行くことにします。
王さまの目にも、さっぱり見えません。( 当たり前 )
けれど、
おお、まことに うつくしい!
そして、家来も、
ああ、なんと うつくしい布で ございましょう!
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悪ものたちは、見えない服をつくり、
王さまは、見えてもいない衣装を 身にまとい、大通りを 行進します。
裸の ままで。
パレードを 見物している人も、
窓から のぞいた人も、
王さまのあたらしい服は、なんてきれいなんだろう!
・・・
そのとき、
ひとりの ちいさい子どもが、
王さまは、なにもきてないよ!!!
そのことは、ひそひそと、口から口へ。
とうとう、都中の人が、「王さまは、なにもきてないよ!!!」と 叫びました。
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王さまは、気づきました。
でも、
パレードは はじまってしまったのだから、つづけねばなるまい!
侍従たちは、
ないはずの すそを、
もっと たかくささげて
、しずしずと すすんでいきました。
( この場面には 象徴性が ありますね。 )
・・・
裸でパレードをする王さまの 滑稽な姿から、笑い話、権力者を諷刺したおはなしと考えられています。しかし、いま読み返しますと、他者の評価を気にするあまり、自分の目を 信じられなくなった者の 悲劇に見えてきます。 諷刺の矛先は、王さま、大臣、役人だけでなく、都の庶民にも向けられています。人びとの滑稽だが、悲劇的な姿です。 悲喜劇です。そこに自分がいないことを願います。
アンデルセンの原題は「皇帝の新しい服」。原題からわかるように、目に見えない皇帝の服に対する人物たちの見方、対応が要点だと思います。はだかの王さまだけの問題ではありません。はだかの王さまを笑う前に、自分自身を振り返ってみなければなりません。いまでもあることとして、わたしたちの問題として提示されています。
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※『はだかの王さま』 アンデルセン作、バージニア・リー・バートン絵、 乾 侑美子訳 岩波書店 2004年 (2016/5/27)

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