ふるはしかずおの絵本ブログ3

『 すきまの じかん 』- 詩的で哲学的、そして美しい絵の本

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昼と夜の間のほんのわずかな時間、それが「すきまのじかん」です。
      
「あかりをともすほど、くらくもなく 
 かといって ほんをよんだり、ぬいものをするほど 
 あかるくはない じかん。」
     
「それは おもいでのせかい。
 かなしいような うれしいような・・・
 あったのか、なかったのか さえ わからないような はかないじかん。」
     
擬人化されたすきまのじかん。かれは竹馬に乗っています。
太陽の王さまとやみの女王さまの、どちらからも嫌われている すきまのじかん。
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太陽の王さまとやみの女王さまは、いつも いがみあっています。
そこで、ふたりの間に そっと 忍びこむことにしました。
ほんの わずかな間に。
そのほかのときは、木のみきや 街灯のなかに かくれてすごします。
    ・・・
ある夕暮れ、かれは鳥たちの声をききました。
むこうがわの じかんに・・・うつくしい おひめさまが すんでいるらしいよ
むこがわとは?
うつくしい おひめさまとは?
     ・・・
すきまのじかんは、アオサギにすがたを変え、むこうがわのじかんへと旅だちます。
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そこに見たのは、美しいよあけの おひめさま。
ユリのはなのように すがすがしく うつくしい
すきまのじかんは、恋をして しまいました。
それいらい、
すきまのじかんは よあけのおひめさまを 見にいくようになったのです。バラのはなを はさんだちいさなほんを たいせつにかかえて
      ・・・
すきまのじかんが 竹馬にのる姿には、かれの存在の不安定さが 暗示されています。「こころのなかは よるのやみに おおわれている」すきまのじかん。「なにもかいていない ちいさなほん」は、すきまのじかんの存在の希薄さとかさなります。ゆびぬきを頭にかぶる滑稽さ。また、マフラーをとめるながいピンには不安を感じます。
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しかし、かれは恋をしました。ちいさな本にはさまれた、黄色いバラ。それは「あなたを恋します」(花言葉)の喩えかもしれません。すきまのじかんは、よあけのおひめさまと出会い、生まれ変わろうとしています。すきまのじかんの確かな時を、きっと、夜明けに見ることができるでしよう。比喩がちりばめられた、詩的で哲学的な絵本です。そして、アンネ・エルボーの美しい絵。絵の本です。
      ・・・
※『 すきまの じかん 』 アンネ・エルボー作、木本 栄訳 ひくまの出版 2002年 
      
【 追 記 】
マフラー、ピン、バラなどのことばをのぞいて、文章はひらがな表記です。漢字はひとつも使われていません。漢字には存在感があります。しかし、ひらがなには、やさしいイメージがあります。このあいまいで、はかない感じの人物をひらがなが彩っています。訳者もこの世界の創作者のひとりであることを実感します。 (2016/12/5)

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