ふるはしかずおの絵本ブログ3

『わにさんどきっ はいしゃさんどきっ』-ふたりの様子が笑えます

歯医者さんに行くわにさん。わにさんを迎えた歯医者さん

人物と状況の設定だけで、つぎに起こることへの期待が高まります。

      ・・・

歯が痛い わにさん。

 ゆっくり あそんでいいけど

 いかなくちゃ いけないね

    

歯医者さんは、仕事をはじめようとして言います。

 ゆっくり あそんでいいけど

 いかなくちゃ いけないね

       ・・・

わにさんが、歯医者さんを見て どきっ

歯医者さんも、わにさんを見て どきっ

   

 どうしよう……

 どうしよう……

    

 こわいなあ……

 こわいなあ……

    

 でも がんばるぞ

 でも がんばるぞ

わにさんと歯医者さんは、お互いをこわがっています。

わにさんは、歯の治療が こわく、

歯医者さんは、わにさんが こわいのです。

また、おなじセリフですが、全く違う意味になっています。

つづけてみます。

       ・・・

かくごは できた

かくごは できた

いたい!

いたい!

もう ひどいしゃないか

もう ひどいしゃないか

     ・・・

おこっても はじまらない

もうすこし がんばれ

ほっ

たいへん しつれい しました いずれ また

いやいや もう にどとは あいたくないね

だから はみがき はみがき。

同じ場面に同じ言葉が続きますが、わにさんと歯医者さんにとって、その意味はちがっています。ページをめくるたびに、ふたりの心が変わっていくのがわかります。読者は、ワニさんと歯医者さんのどちらかに同化するというより、脇から見る体験をします。その体験は、ふたりの人物の知らないところを知っている、高みに立っての体験です。また、それはふたりの深刻な状況とは違って、笑いを含んでいます。

    

わにさんと歯医者さんの状況の「正」と「反」。また、登場人物のビクビクする体験と読者の笑える体験の「正」と「反」。そして、読者の心にうまれる「合」です。こうした仕組みと仕掛けがある絵本です。

  

理屈はさておき、ユーモアがあり笑える絵本、ウィットに富んだ作品でした。ふたりのセリフを読み分けたら、おかしさは倍増です。また、このような事態はわたしたちの中にもあることかもしれません。

       ・・・

※『わにさんどきっ はいしゃさんどきっ』 五味太郎作・絵、偕成社 1984年  (2020/1/22)

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