ふるはしかずおの絵本ブログ3

『こんとん』- 現代の「こんとん」とはなんだろうか

「渾沌または混沌は、中国神話に登場する怪物の一つ。四凶の一つとされる。その名の通り、混沌(カオス)を司る。犬のような姿で長い毛が生えており、爪の無い脚は熊に似ている。目があるが見えず、耳もあるが聞こえない。脚はあるのだが、いつも自分の尻尾を咥えてグルグル回っているだけで前に進むことは無く、空を見ては笑っていたとされる」(ウィキペディア)

       ・・・

 こん

  とん

 こん

  とん

 たたいてるんじゃないぞ。

    

絵本はこのようにはじまります。

こんとんは

名前はない。

だれでもない。

なんにでもなれる。 

     ・・・

犬のような姿で、

長い毛が生えている。

足は熊に似ているが、爪がない。

耳は聞こえない

目は見えない

前にむかって歩けない。

いつも空をみてわらっている。

あるとき、

南海の帝の儵(しゅく)と

北海の帝の忽(こつ)が、こんとんのところに遊びにやってきた。

ふたりは、

耳も口もないこんとんに向かって言います。

「目と 耳と」

「鼻と 口をつくってやろう」

そして、

二つの目、二つの耳、二つの鼻のあな、そして口。

あわせて 七つの あなを つくってやったんだって

そうしたら、

こんとんは

地面に倒れ、二度とおきあがらず、死んでしまった。
そして、語り手は述懐します。

      

 じぶんの 目で みる

 きく

 かぐ

 じぶんの 口で かたる。

 それは

 なんだか

 とてつもなく

 たいへんな

 ことだったんだろうね

寓話です。

中国の神話と荘子の『混沌』がもとになっています。ここからいろいろな意味(解釈)を引き出すことができるでしょう。また、語り手(おれ)の語りと口調がおもしろいものです。教訓を語ろうとするのではなく「こんとん」に寄り添うように語っています。古典を現代に蘇らせようとするお二人の作家の創造です。
子ども向きの絵本とはけっして言えませんが、こうした本を出した出版社にも拍手を送りたいと思いました。

    

 いつも

 空を みあげて

 わらっていたっていう

 こんとんのやつ

 おれは

 なんだか

 すきなんだよねえ

     

「人は皆、有用の用を知りて、無用の用を知るなきなり」(荘子)。

      ・・・

※『 こんとん 』 夢枕 獏 文、松本 大洋 絵、偕成社 2019年 (2019/8/18)

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