ふるはしかずおの絵本ブログ3

『かえるのごほうび』-「鳥獣戯画」の世界

鳥獣戯画におはなしをつけました。詩人の木島始が文を描いています。レイアウトは梶山俊夫です。50年以上も前に、このような実験的な絵本がつくられていました。

     ・・・

 しいーっ

 みんな しずかに してごらん

 もりから なにか

 にぎやかな ひびきが きこえてくるよ

   (このような前書きから始まります)

      ・・・

きょうは森のお祭りだ。

腕くらべ、力くらべが見られるぞ。

こっちは、相撲だ。

いい勝負。

あ 上手投げ?

かえるが うさぎを 投げとばした。

うっちゃりだ

いっとうしょうは、かえるのもの。

相撲がおわり、

みんなが帰ろうとすると、

じけんだ、

じけんだ、

たいへんだ。

      ・・・

いっとうしょうの かえるが うごかない。

ご褒美のごちそうの 食べすぎかな。

つっついても 

ひっぱても 

うごかない。

お祭りは、かえるの葬式に 早がわり。

みんなでお祈りだ。

さるのお坊さんが、お経をあげる。

欲張りな、さるのお坊さんは、

お供えのご褒美をみんな持ち帰る。

鹿や いのししに 運ばせて。

     ・・・

でも、じつは、

さるの悪巧み。

眠り薬をのませ、

そのすきに 

いっとうしょうのご褒美を盗むつもりが、かえるが死んでしまった。

     ・・・

しかし、

壁に耳あり。

さるの悪知恵は みみずくに聞かれ・・・

みんなは、

つかまえろ、

こらしめろ、

ぶったたけ!

うさぎとかえるは、さるを おいかける にらみつける おいかける。

 どっき どっき どっき 

 しぃーんと しずかな もりのおくから 

 どうぶつたちの おいかけっこが

 いつまでも ほら きこえてくるよ

   (おはなしはこのように額縁構造になっています )

     ・・・

表情豊かなうさぎ、かえる、さるたち。人物たちが生きています。絵を見るだけでも楽しい絵本です。しかし、おはなしが書かれることで絵の意味あいがはっきりしてきました。言葉の力で絵がさらに動きだしました。 語り手の言葉は、絵の意味を明確にし、場面をいきいきとさせ、人物たちのこころを表現しています。

 

はじめの文は、「鳥獣戯画」の世界の入り口であり、この世界への橋渡しをしています。おわりの文には余韻があります。おはなしの額縁構造が絵本の世界に奥行を与えています。

 

また、裏焼きになっている絵もあり、梶山俊夫さんのレイアウトの工夫も絵本の魅力を高めています。「鳥獣戯画」を子どもの身近なものにした作家と編集者のすばらしい試みだと思いました。「鳥獣戯画」などの絵巻物は絵本の原型と言えます。

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※『かえるのごほうび』 木島始作、梶山俊夫レイアウト、福音館書店 2021年   初版は「こどものとも 130号」 福音館書店 1967年 (2021/12/17)

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