ふるはしかずおの絵本ブログ3

『おこだでませんように』- 七夕の短冊の願い

『おこだでませんように』って何でしょうか。「怒られませんように」だと思いますが、タイトルが仕掛けになっています。

     ・・・

ぼくは いつも おこられる。

家でも、

妹を泣かせて、かあちゃんにおこられる。

      ・・・

学校でも、

女の子を驚かせて おこられる。

休み時間、

サッカーの仲間に入れてくれないマーくんとターくん。

ぼくは、マーくんとターくんを泣かせた。

「また やったの!」

ぼくだけ、先生におこられた。

  

きのうも おこられたし・・・

きょうも おこらてる・・・。

あしたも おこられるやろ・・・。

      

どないしたら おこられへんのやろ。

ぼくは・・・「わるいこ」なんやろか・・・

七夕の日、ぼくは短冊にお願いを書いた。

一番のお願いをした。

平仮名ひとつずつを、こころを込めて書いた。

       

 「おこだでませんように」(「ま」は鏡文字になっています)

       

先生は、じっと短冊を見た。先生が泣いていた。

「ごめんね。よう かけたね。ほんまに ええ おねがいやねえ」

先生から連絡を受けた、かあちゃんも

「ごめんね」と言って、ぎゅうっと抱きしめてくれた。妹が羨ましがるので、ぼくは妹をだっこしてやった。

ふたりとも おかあちゃんの たからものやで

     ・・・

お母さんに抱き締められているぼくと妹の絵が最後にあります。笑い声が聞こえてきそうな素敵な絵です。3つの短冊が飾られた七夕飾りがあります。「おこられませんように」と書かれた短冊が見えます。「ま」は鏡文字ではなく、正しく書かれています。書き方を教えてもらったのです。正しい書き方を教えたのは、ひとりで2人の子どもを育てているお母さんでしょう。絵の中にも、お話が隠れていました。

大人の心に響く絵本です。

      ・・・

※『おこだでませんように』くすのき しげのり作、石井聖岳絵、小学館 2008年

 

【 追 記 】

保育科の教師を始めた頃の思い出です。

幼児教育の現場で長年働いてこられたS先生と廊下で雑談をしていた時のことでした。学生たちがやって来て、自分たちの作品を先生に見せました。その時の先生の言葉がいまでも忘れられません。

先生は笑顔でこうおっしゃいました。

  

「まあ、すてき」。

  

学生の作品を認め褒める言葉です。「和顔愛語」のすがたでした。当時のわたしには決して言えない言葉でした。シンプルなのに言えない言葉があるものです。そして、幼児教育とは何かが少しだけわかったように思ったものでした。 (2022/1/14)

SHARE